秋晴れのヒーロー

「秋晴れ」ということばがあります。俳句では秋の季語で、夏の青空のぎらぎらした明るさとは違って、空がすうっと高く、遠くまで澄みわたる晴れ方のことをいいます。運動会が秋に多いのも、この空のおかげかもしれません。
今年の運動会も、そんな秋晴れの日でした。
4歳児のリレーでのことです。バトンを受け取ったその一歩目で、ひとりの子が前のめりに転んでしまいました。すぐに起き上がり、走り出しましたが、もう泣いているんですね。泣きながらグングン走るんです。前を行く背中との差が、少しずつ、少しずつ縮まっていきます。けれど、追いつくことはできませんでした。風になびくゴールテープの横を駆け抜けると、その子は待っていた担任の先生の胸に飛び込んで、顔をうずめました。
「負けるが勝ち」ということわざがあります。争わずに譲ることが、かえって勝ちを呼ぶ。立派な知恵ですが、どこか大人の要領のよさもにじむことばです。
けれど、あの日、会場の秋根公園で見た負けには、知恵の入りこむ余地など、少しもありませんでした。本気で走って、本気で悔しがる。私は、本物の「負けるが勝ち」を見た気がします。
しばらくして、その子は先生に手を引かれて、退場門のほうへ走っていきました。高い空の下で、つないだ二つの手が、小さく揺れていました。



コメント